和歌と俳句

飯田蛇笏

白嶽

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松すぎの牝牛をつなぐ蔬菜園

初むかし高原しろき雲をとむ

門前の雲をふむべく年新た

年むかふ門にそびえて駒嶽の嶮

雨ふれば年たつ苑の岩巌目ざむ

かびろくてうづの杣山年迎ふ

八重山をうづむる雪に機はじめ

はつ機の産屋ヶ岬にひびくなり

僧形もまじりてみゆる野火の煙

まな妻のまなこあまえて春の風邪

まさをなる大草籠にねこやなぎ

花冷えや尼僧生活やや派手に

蘭しげる瀧口みえて春の虹

さうび咲く薬草園のきつね雨

薔薇浸けし葉のきはやかに甕の水

蟲たえて奥地は薔薇に陽の昇る

遅月のかげを艫にひく蓮見舟

いばらさく墻にとなりて麦うれぬ

帰省子の気がやさしくて野菜とる

虹たちて草あざやかに蛇いちご

湿原の茱萸あさる童に虹たちぬ

秋涼の雲に鳶啼く大菩薩

やまびこをつれてゆく尾根いわし雲

歎楽にやつれて仰ぐうろこ雲

月にほひ秋雪を刷く嶽となる