新年の深雪ぬくとく愛馬飼ふ
雪あらた嶽ちかぢかと年むかふ
あらたまの年のひかりに萬年青の實
雲きれて初富士の雪ややくらし
雪解川鳶浮く雲にひびきけり
ぎんねずに朱のさばしるねこやなぎ
ねこやなぎ名残りの雨に日の通る
花の月いさをの諸霊とこしなへ
春着きて流離の袖をあはせけり
杣の子が雉子笛ならす暮春かな
春惜しむ湖凪ぎて富士涵る
阿難越え春行く富士を仰ぎけり
雨水に杉菜涵りて夕蛙
豌豆の手の枯れ竹に親すずめ
千代田城松みどりなる大旦
天さかる鄙のはつ虹年新た
西空切れてはつやまびこに機はじめ
初能の灯は幽かにて月ゆがむ
春嶽の甌窶にあそぶ花曇り
東風の日や啼く鳶天にとどまりて
東風ふいて巣箱にひくき穂高嶽
焼嶽に月のいざよふ雪解かな
宿雪解くまひるの風に山つばき
日の光りつばさ煽りて山つばき
父祖の地の苔なめらかに椿おつ
新墾の土にうるほふ落椿
おちつばき風にころがりはこび雨
ひとつづつながれてゐざるおちつばき
くちづけて連翹あまき露のたま
連翹花咲きたるる地の霑へり
梅咲いてうす靄こむる陵墓かな
たちよるや梅の下水月涵る
豌豆のさく土ぬくく小雨やむ
まひよどみおほながれしてひばりなく
日輪にきえいりてなくひばりかな
上りつめうしろさがりにひばりなく
ひばり啼き富士雲隠る湖畔みち
霽雲に富士は藍青ひばりなく
雲に啼き西湖にうつるひばりかな
聖祭に春の雪ふる蘇鐵苑
収穫れを尼僧もすなるキャベツかな
初夏の手籠に満てし紅蕪
娘がかせぐ初夏の菜園渓向ひ
初夏のみちぬれそむ雨に桑車
うすいろに奥嶽聳ゆる皐月空
火山湖にとほく小さき皐月富士
藍々と五月の穂高雲をいづ
苗代の日雨こまやかゆすらうめ
山櫻桃熟れ老農夙に畦をぬる
葉ざくらに人こそしらね月纖そる