和歌と俳句

飯田蛇笏

白嶽

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夏至の花卉夜は汐騒の遠かりき

花卉ぬるる磯園ゆけば夏つばめ

蘇鐡ぬれ覇王樹花をひらきけり

高浪もうつりて梅雨の掛け鏡

燈台に薄明の汐梅雨の暁

魚籃かつぐ天津の乙女梅雨げしき

夏雲に日々登高をおもふのみ

己が香の湯治ゆかたにほのかなる

春百花しづまれる世の薄暮光

病院の夏雨つよく花卉にふる

病院の梅雨の貯水池あをみどろ

派手ゆかた着て重態のいたましき

楡青葉窗幽うして月も病む

夏真昼死は半眼に人を見る

なみだ涸れ吾子ねむりつづ夏日昏る

妻そむき哭くバルコンの夏日昏る

夏日灼け死は鉛よりおもかりき

子は危篤さみだれひびきふりにけり

終焉の夏暁の冷えをわすれえず

夏月黄に昇天したる吾子の魂

ふた親のなみだに死ぬ子明けやすし

梅雨さむき吾子の手弥陀にゆだねけり

ちちははをまくらべにして梅雨

泣きあゆむ靴炎天におとたてぬ

梅天の靈にのぼりて香一縷