和歌と俳句

飯田蛇笏

白嶽

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高浪にかくるる秋のつばめかな

別れ蚊帳霧じめりして干されけり

青草もほのぼのもゆる門火かな

はつ嵐小猿に鷲はこずゑかな

さむざむと日輪あそぶ冬至かな

霜風に稲扱き遅る桑隠り

軍国の埠頭のに靴鋲鳴る

霜風の枯荏をゆりて通りけり

やうやくに凍ての身につく夜陰かな

宙凍てて枯木にひびく日の光り

売文のもろ爪凍る身そらかな

日々のこと凍ても身にそひ障子貼る

日短く棺さしのぞくうからかな

日短く葬者のもろき泪かな

さむき日の淡々しくも野辺送り

母逝きて暑往寒来名草枯る

凍花に二夜の経も七々忌

凪いで鵞の泛く漣のくらみけり

隊列にちる軍靴おとつよむ

天あをく枯無花果にこぼす

嶺々遠くの明暗大日和

嶺のに野はもの寂びて天かしぐ

冬の水すこし掬む手にさからへり

マスクせる兵の感涙きらびやか

聖日の兵ら艀に空つ風

薪水に風邪妻の手のさやかなる

温室とぢて天禮幽に冴ゆる

鶴は病み寒日あゆむことはやし

雪虫はすずろに凍てし鶴双つ

水翳に凍鶴の羽の吹かれもす

羽をのして鶴啼く寒の日和かな

雲もなく陽はゆきやまぬ焚火かな

好日の落葉をのせたるたなごころ

落葉尽く岨路をゆけば沓の泥

大冬の雲なき群ら嶺ねむり入る

燈をささぐ暁まだくらし神楽姫

すめろぎに年たつやこの雪に富士

詩にすがり花卉凍凋の日を仰ぐ

おもひあらた邯鄲の鳴く國土かも

極月八日潮の明暗醜を攘つ

燈台の娘は花園に土用浪

園ひろくユッカの咲きて宵祭

鵜の嶋に流燈こぞる夜の雨

風ふいて流燈はやく屋形船

枯れすすきかさへるばかり岨の雨

時雨やみわがこころばえ地を愛す