和歌と俳句

落葉

鳥けもの朝はしづかに落葉ふる 楸邨

有馬川今年の落葉流れ行く 普羅

豆腐屋の笛が、郵便もくるころの落葉 山頭火

雨脚に濡るゝ石ある落葉かな 石鼎

澤渡りの石に落葉のたまりけり 万太郎

音しげく我にさからふ落葉かな 汀女

今日の日の黄なる落葉に逍遥す 茅舎

どろ靴を落葉の上に踏み入るる 草田男

落葉踏むことにも倦きて道に出づ 草田男

高きより落葉光を失しつつ 虚子

だぼ鯊もおこぜも買うて落葉宿 石鼎

足音を迎へさわだつ落葉かな 汀女

あひうちて夜空降り来る落葉かな 汀女

落葉早や掃き行く人と別れたる 汀女

降る程の落葉ならぬも亦よけれ 立子

落葉降り日が射し落葉また降りぬ 楸邨

朝刊をとれば落葉の匂ひける 楸邨

落葉ふり火炎のごとし樹の没日 楸邨

帚あり即ちとつて落葉掃く 虚子

十字架の鉄鎖落葉の地に低き 不死男

音楽堂雨露の椅子置く園落葉 不死男

泊つる船みな街へ向く園落葉 不死男

夜の落葉港埠にきたり靴ひびき 不死男

寐にかへる船のマドロスに落葉降る 不死男

落葉に教師と妻とかげはこぶ 林火

掃き終へし庭に落葉の浅々と 立子

落葉する細きするどき音のあり 立子

木の間より湧き立ち降れる落葉かな 立子

落葉中とび立つ鳩も静かなり 立子

落葉ふり人も子犬も陽に甘ゆ 桃史

静さに耐へずして降る落葉かな 虚子

しらじらと夜のあけてくる落葉かな 万太郎

紙風船美し落葉うつくしく 万太郎

芝の上にけふの落葉はつやをたもち 彷徨子

大学に来て踏む落葉コーヒー欲る 草田男

落葉に偲ぶ学の鉄鎖の重かりしよ 草田男

掃いてある落葉の道がみちびきぬ 汀女

落葉掃く音山にあり移りゆく たかし

朝濡るる落葉の径はひとり行かな 素逝

落葉ふかしけりけりゆきて心たのし 素逝

風呂敷に落葉包みぬ母も子も 茅舎

落葉掃了えて今川焼買ひに 茅舎

童等のふつつり去りし夕落葉 汀女

昼餉置く落葉は広くみな清し 汀女

大木に従ひ立ちて落葉踏む たかし

人歩き幹立並ぶ落葉かな たかし

爛々と虎の眼に降る落葉 赤黄男

英霊を祀る日に逢ふ落葉かな 友二

大木の見上ぐるたびに落葉かな 虚子

公園の落葉の椅子の隣同士 汀女

落葉幾重嬉しき兵は上を向く 草田男

夫恋へば落葉音なくわが前に 信子

落葉ひらひら風のゆくへに従ひぬ 占魚

地に敷いて落葉のしじまときにあり 素逝

地のしじま落葉のしじま敷きにけり 素逝

足音をつつみて落葉あつく敷く 素逝

地に敷いて朝の落葉のささやかず 素逝

しづかさをひいて落葉の音つたふ 素逝

かそけさの落葉の音の枝をつたふ 素逝

暮れてゆく落葉おのおのおのが位置 素逝

土と暮れ落葉は闇にもどりけり 素逝

好日の落葉をのせたるたなごころ 蛇笏

落葉尽く岨路をゆけば沓の泥 蛇笏

つかのまにくもり果てたる落葉かな 万太郎

道かへていよいよふかき落葉かな 万太郎

なにはやも落葉の門の灯りけり万太郎

うすうすと届く灯影の落葉かな 汀女

落葉降る宮の四隅の御柱 たかし

落葉して岩の秀にある夕日かな 占魚

舞うてゐし庭の落葉何時かなし 虚子

石段の落葉ふみふみ上りけり 万太郎

屋根に落葉目に見えてくらしつまりゆく 林火