高浜虚子
茶屋の前広うして掃く散紅葉
湯婆に唯一温の草廬なり
ニ三子や時雨るる心親しめり
茶屋客や竝び受取る時雨傘
今朝も亦焚火に耶蘇の話かな
梅を探りて病める老尼にニ三言
日向ぼこの我を乱さぬ客ならば
行年や門司へわたりの人の中
雪空にいつしか月の見えて暈
雪空を支へて菊の覆ひかな
冬帝先づ日をなげかけて駒ヶ嶽
追分を聞いて冬海を明日渡る
湾を抱く雪の山々は北海道
枯萩のいつまで刈らであることか
三聲ほど炭買はんかと云ふ聲す
毛氈に色のあせたる散り紅葉
散り紅葉ここも掃き居る二尊院
落葉なほくすぶりありぬ戻り路
霜を掃き山茶花を掃くばかりかな
侘助や障子の内の話し聲