和歌と俳句

高浜虚子

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宮柱太しく立ちて神無月

一筋に神をたのみて送りけり

沢庵や家の掟の鹽加減

昼寄席の下足すくなき寒さかな

一人寒く佛の道に入りにけり

物くれる阿蘭陀人やクリスマス

昼過ぎの炬燵ある間を煤拂

かわり合ひて先生の餅をつきにけり

顔見世や茶屋の傘行き通ひ

山眠る如く机にもたれけり

遠山に日の当りたる枯野かな

したたむる旅の日記や榾明り

百年の煤も掃かずに囲炉裏かな

古傘で風呂焚く暮や煤拂

かくれ住む人訪ふの野路かな

河豚くふや短き命短き日

河豚くふて尚生きてゐる汝かな

俳諧に老いて好もし蕪汁

生きのこる老のまとゐや蕪汁

旅衣炬燵の裾にかけて寝ん

浦嶋草一夜のに老いにけり

一年の煤やきのふの雪の上

高瀬川木屋町の煤流れけり