和歌と俳句

高浜虚子

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積む萱も大破の屋根も時雨れけり

三世の佛皆座にあれば寒からず

ある時は布団のおごり好もしき

旅蒲団軽き恙に熟睡かな

降れば霜を楯とす法の城

灰の如き記憶ただあり年暮るる

身一つを先づもたらしぬ雪の國

寒燈に柱も細る思ひかな

眠る山に帰る雲あり南禅寺

霜白き窓外の景に焚く爐かな

各々にそれぞれ古りし火桶かな

能を見て故人に逢ひし師走かな

凍てぬると車の音の聞こゆなり

地球凍てぬ月光之を照しけり

我を迎ふ旧山河雪を装へり

時ものを解決するや春を待つ

水仙を剪りたる日よりみぞれけり

水満てて春待つ石の手水鉢

闇汁の杓子を逃げしものや何

闇汁の闇はろはろと月麩かな

虎落笛子供遊べる聲消えて

喝食の面打ち終へし冬至かな