高浜虚子
佇めば落葉ささやく日向かな
軒借るや又時雨来と言ひながら
かりそめにかけし干菜のいつまでも
干からびてちぎれなくなる干菜かな
灯のともる干菜の窓やつむぐらん
庫裡を出て納屋の後ろの冬の山
國寒し四方の山より下ろす炭
ストーヴに遂に投ぜし手紙かな
寒燈の油を惜む尼の君
とつかはと祠の神も旅立ちぬ
爐開きに参る時雨の雨やどり
たまるに任せ落つるに任す屋根落葉
徐々と掃く落葉帚に従へる
大空に伸び傾ける冬木かな
かりに著る女の羽織玉子酒
ふだん著の女美し玉子酒
筒つぼを著て寒紅をつけにけり
手にとればほのとぬくしや寒玉子