和歌と俳句

山眠る

海府便絶えしよにいふ眠る山 碧梧桐

絶えて紀行なき蕪村思ふ眠る山 碧梧桐

重なりて眠れる山は鞍馬かな 虚子

石段に杉の実落ちて山眠る 鬼城

眠る山の水しぼり取る筧かな 喜舟

牛にあらず二上山の眠るなり 普羅

果樹園の門を閉しぬ山眠る 普羅

垣低し礪波医王の眠るかな 普羅

愛宕社のうしろに出でぬ山眠る 普羅

日昃るやねむる山より街道へ 不器男

東山日のほがらかに眠りたり 草城

かさなりて眠る山より高野川 草城

わが机眠る比叡を硯屏に 草城

北山の眠りの深くみゆるかな 草城

山眠る大和の国に来て泊る 青邨

眠る山佐渡まで見ゆる径のあり 普羅

大冬の雲なき群ら嶺ねむり入る 蛇笏

山眠り孫は大きく育ちけり みどり女

眠る山廟の極彩打守り 茅舎

眠る山陽明門をひらきけり 茅舎

相寄りて眠れる山の谷の坊 たかし

炭竃に塗込めし火や山眠る たかし

山眠る温泉のまちの人やさし 占魚

浅間山空の左手に眠りけり 波郷

大冬の雲なき群ら嶺ねむり入る 蛇笏

大嶺の集まり眠る國境 たかし

山眠る最中に我を現じたる たかし

山眠り激流國を分ちたる たかし

天龍へ崩れ落ちつつ眠る山 たかし

天龍の落つるを阻み眠る山 たかし

山眠る田の中の道犬走り 青邨

水べりに嵐山きて眠りたり 夜半

帯のごと頽雪どめして山眠る 普羅

大いなる足音きいて山眠る 普羅

硝子戸にはんけちかわき山眠る 万太郎

鴨たてゝ再びねむる野山かな 普羅

従ふにぶどう広棚山眠る 爽雨

うかうかと生きのびしかな山眠る 万太郎

ちらちらと箸ばさむ河豚山眠る 不死男

山眠り雑木ひとしく命ため みどり女

眠る山紺紙揉みたるごとくなる 青畝

眠る山湯釜を蒼く湛へけり 秋櫻子

朝日夕日眠れる山を赤く覚ます 林火

奥へ奥へ夕日を送り山眠る 林火

あの寺が常時念佛山眠る 青畝

自然薯を抜き損はず山眠る 静塔

炭壺の糸びんびんと山眠る 双魚