和歌と俳句

長谷川双魚

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手のとどくところに秋の風吹けり

一月の翳をつぶさに人あるく

冬近づきし街に出て菜のみどり

杜いでて冬田明りの老婆たち

木は風の行方をさだめ三十三才

冬去りぬうぶすなの木に子がのぼり

吾亦紅林中はいろ虔しめり

虎落笛風樹の嘆のごときもの

さげて橋のなかほどより淋し

あしかびの青のひといろ風いでし

厠紙辛夷明りに減りゆけり

まだ雁がゐて織絣染絣

うぶすなの樹々の茂りのしづかかな

生木燃え二月みづみづしくありぬ

かげろひて通る信濃のわらべ唄

初泣きの水飲みてよき声を出す

盲人に昼と夜があり花杏

春泥を踏み老人を見にゆけり

病人が唇あけてゐる花ぐもり

雪婆ばんばと呼ばれ漂へり

朧夜の袋小路の喧嘩かな

ふるさとは陰を祀りて涅槃西風

白湯呑みて小皺の殖ゆるおぼろかな

ちるまへの花のくらさをおもひゐる

のうらが湿りて子をわたす

ひよどりのあと鶲来て三里の灸

母が子にあまえ没日のすかんぽよ

童が跼みゐて草木瓜に朱がのこり

警察署まへに柳絮がとぶことも

水湧きて形をつくす犬ふぐり

忘恩のごとく畦火を踏んで消す

鶏舎いでて鷄昏らし聖金曜日

家深くゐて花時の素顔かな

水の夢みてするすると障子あく

縄跳びの端をもたされ木の葉髪

足袋はくやはじめを強く喪の太鼓

山の子が雪に筋つけ遊びゐし

園児らに翳多き径かたつむり

一坪の畠の二百十日かな

昆虫館いでし少女に雁渡し

敬老といふ日の海を見にゆけり

炭壺の糸びんびんと山眠る

下りて来し山の灯の数臘八会

すかんぽや唇にくはへて釘湿らせ

車田の雪後は別のくらさにて

水と火が家々にあり卒業

石蕗の花石蹴つて夕空が澄み

ふりむけば塔婆と昃る烏の子

きさらぎの家出て色にさとくなり

羽抜鶏吊せば束子まはりけり