和歌と俳句

春泥

春泥にうすき月かげさしにけり 万太郎

春泥をいゆきて人を訪はざりき 鷹女

買い物の似し風呂敷や春の泥 汀女

春泥のバスの疾駆をゆるすのみ 汀女

北の街の果てなく長し春の泥 汀女

春泥や赤い足袋の子馳せおくれ 汀女

春泥にふりかへる子が兄らしや 汀女

春泥や庭の真中の物干場 立子

春泥に映り歪める女かな たかし

春泥に映りてくるや町娘 たかし

春泥やわが影ぞすぐうち踏まれ 汀女

君少し歩けば春の泥少し 汀女

春泥に踏む雲はれし山路かな 麦南

春泥や村の家々ほど遠き 占魚

春泥にかるき荷物を下げて来ぬ 占魚

窓の灯の消えて綾なし春の泥 虚子

春泥に映りすぎたる小提灯 虚子

春泥につづき煌く星もあり 汀女

春泥や高爐はすでにそばだてる 汀女

春泥に押あひながら来る娘 素十

古葎美しかりし春の泥 波郷

春泥の庭を散歩の足駄かな 虚子

春泥をゆく声のして茜さす 亞浪

春泥をふみかへし踏みかへすかな 万太郎

春泥に歩きなやめる遠会釈 立子

澄むものは時計の音か春の泥 綾子

春泥や意志とならねばならぬもの 綾子

久々に家を出づれば春の泥 虚子

春泥や半丁ほどのあともどり 万太郎

春泥に歩みあぐねし面あげぬ 立子

ゴム毬がはづみてつけし春の泥 綾子

春泥に影濡れ濡れて深夜の木 三鬼

春泥に月の轍を引き重ね 朱鳥

春泥を来し足抱きて靴磨き 朱鳥

春泥や芭蕉うまれし家のまへ 万太郎

みごもりて裾につきゐる春の泥 綾子

春泥のまつくらやみに迷ひをり 立子

春泥を人罵りてゆく門辺 虚子

春泥の鏡の如く光りをり 虚子

春泥にほつりとおちし灯影かな 万太郎

春泥の窪みは妻の病むごとし 双魚

春泥にたまりて水が澄みゐるよ 双魚

春泥や遠く来て買ふ花の種 秋櫻子

春泥や守礼の門の扉を持たず 青畝