和歌と俳句

蕨 わらび

志貴皇子
石走る垂水の上の早蕨の萌え出づる春になりのけるかも

好忠
蕨おふる矢田の廣野にうち群れており暮しつつ帰る里人

好忠
立ちながら花見暮すも同じこと折りて帰らむ野べの早蕨

源氏物語・椎が本
君が折る峰のわらびと見ましかば知られやせまし春のしるしも

源氏物語・早蕨
君にとてあまたの年をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり

源氏物語・早蕨
この春はたれにか見せんなき人のかたみに摘める峰のさわらび

公実
春日野の 草は焼くとも 見えなくに 下萌えわたる はるの早蕨

匡房
とやまには 年明けにけり いはのうへの たるひもとけて 萌ゆる早蕨

国信春の野を ことありかほに かへせども うてる蕨は たはねだになし

顕季
むらさきの ちりうちはらひ 春の野に あさる蕨の もの憂げにして

源顕仲はるやまの すそのに萌ゆる 早蕨は みねのかすみや けぶりなるらむ

俊頼春来れど 折る人もなき さわらびは いつかおどろに ならむとすらむ

師時
雨ふれど なほ萌えまさる 早蕨や はるの焼野の しるしなるらむ

藤原顕仲
はるたてば ゆきげの水や ぬるからむ まづ萌えいづる した蕨かな

基俊
み山木の かげ野の下の した蕨 もえいづれども 知る人もなし

頼政
冬枯れの 野辺のにひやけ 程ふれば また早蕨ぞ 萌え出でにける

頼政
めづらしき 人にもあひぬ 早蕨の 折りまく我も 野辺にきにけり

俊成
なげかめやをどろの道のした蕨跡をたづぬる折にしありせば

俊成
早蕨は今はをりにもなりぬらん垂水の氷いはそそくなり

俊成
頼みこし しめちが原の 下蕨 したにもえても 年経にしかな

西行
なほざりに燒き捨てし野のさ蕨は折る人なくてほどろとやなる

定家
霞たつみねの早蕨こればかりをりしり顔のやどもはかなし

定家
谷せばみさかしき岩の下蕨いかに折るべきかけぢなるらむ

定家
山里のまがきの春のほどなきにわらびばかりや折は知るらむ

定家
いはそそぐ清水も春のこゑたててうちやいでつる谷の早蕨

定家
蕨をるおなじ山路の行きずりに春のみやすむ岩のもとかな

俊成
炭竃の煙になるる小野山は春の蕨もまづや萌ゆらむ

定家
霞立つ峯の早蕨こればかりをり知り顔の宿もはかなし

狗背の塵にえらるるわらびかな 嵐雪

ちる花に握る手を出す蕨哉 土芳

築山は人の手つたふわらびかな 千代女

わらび野やいざ物焚ん枯つゝじ 蕪村

折もてる蕨しほれて暮遅し 蕪村

野の河や蕨さはしてひたしもの 召波

負ふた子に蕨をりては持せける 暁台

早蕨や一日路ならつくばやま 白雄

奉る花に手ならぬわらびかな 太祇

蕨採て筧にあらふひとりかな 太祇

土を出て市に二寸のわらび哉 几董

鎌倉の見える山也蕨とる 一茶