和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

早蕨

君にとてあまたの年をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり

この春はたれにか見せんなき人のかたみに摘める峰のさわらび

折る人のこころに通ふ花なれや色にはいでず下ににほへる

見る人にかごと寄せける花の枝を心してこそ折るべかりけれ

はかなしや霞のころもたちしまに花の紐とく折も来にけり

見る人もあらしにまよふ山里に昔覚ゆる花の香ぞする

袖ふれし梅は変はらぬにほひにてねごめうつろふ宿やことなる

さきに立つ涙の川に身を投げば人におくれぬ命ならまし

身を投げん涙の川に沈みても悲しき瀬々に忘れしもせじ

人は皆いそぎ立つめる袖のうらに一人もしほをたるるあまかな

しほたるるあまの衣に異なれやうきたる波に濡るる我が袖

ありふればうれしき瀬にも逢ひけるを身を宇治川に投げてましかば

過ぎにしが恋しきことも忘れねど今日はた先づも行く心かな

ながむれば山より出でて行く月も世に住みわびて山にこそ入れ

しなてるやにほの湖に漕ぐ船の真帆ならねども相見しものを