和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

影をたのみみたらし川のつれなさに身のうきほどぞいとど知らるる

はかりなき千尋の底の海松房の生ひ行く末はわれのみぞ見え

千尋ともいかでか知らん定めなく満ち干る潮ののどけからぬに

はかなしや人のかざせるあふひ故神のしるしの今日を待ちける

かざしける心ぞ仇に思ほゆる八十氏人になべてあふひを

くやしくも挿しけるかな名のみして人だのめなる草葉ばかりを

袖濡るるこひぢとかつは知りながら下り立つ田子の自らぞ憂き

あさみにや人は下り立つわが方は身もそぼつまで深きこひぢを

嘆きわび空に乱るるわが魂を結びとめてよ下がひの褄

昇りぬる煙はそれと分かねどもなべて雲井の哀れなるかな

限りあればうす墨衣浅けれど涙ぞ袖を淵となしける

人の世を哀れときくも露けきにおくるる露を思ひこそやれ

とまる身も消えしも同じ露の世に心置くらんほどぞはかなき

雨となりしぐるるそらの浮き雲をいづれの方と分きてながめん

見し人の雨となりにし雲井さへいとど時雨に掻きくらす頃

草枯れの籬に残る撫子を別れし秋の形見とぞ見る

今も見てなかなか袖を濡らすかな垣ほあれとにしやまと撫子

わきてこの暮こそ袖は露けけれ物思ふ秋はあまた経ぬれど

秋露に立ちおくれぬと聞きしより時雨るる空もいかがとぞ思ふ

亡き魂ぞいとど悲しき寝し床のあくがれがたき心ならひに

君なくて塵積もりぬる床なつの露うち払ひいく夜寝ぬらん

あやなくも隔てけるかな夜を重ねさすがに馴れし中の衣を

あまたとし今日改めし色ごろもきては涙ぞ降るここちする

新しき年ともいはず降るものはふりぬる人の涙なりけり