和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

橋姫

打ち捨ててつがひ去りにし水鳥のかりのこの世に立ち後れけん

いかでかく巣立ちけるぞと思ふにもうき水鳥の契りをぞ知る

泣く泣くも羽うち被する君なくばわれぞ巣守りになるべかりける

見し人も宿も煙となりにしをなどてわが身の消え残りけん

世をいとふ心は山に通へども八重立つ雲を君や隔つる

跡たえて心すむとはなけれども世を宇治山に宿をこそ借れ

山おろしに堪へぬ木の葉の露よりもあやなく脆きわが涙かな

朝ぼらけ家路も見えず尋ねこし槇の尾山は霧こめてけり

雲のゐる峰のかけぢを秋霧のいとど隔つる頃にもあるかな

橋姫の心を汲みて高瀬さす棹の雫に袖ぞ濡れぬる

さしかへる宇治の川長朝夕の雫や袖をくたしはつらん

目の前にこの世をそむく君よりもよそに別るる魂ぞ悲しき

命あらばそれとも見まし人知れず岩根にとめし松の生ひ末