打ち捨ててつがひ去りにし水鳥のかりのこの世に立ち後れけん
いかでかく巣立ちけるぞと思ふにもうき水鳥の契りをぞ知る
泣く泣くも羽うち被する君なくばわれぞ巣守りになるべかりける
見し人も宿も煙となりにしをなどてわが身の消え残りけん
世をいとふ心は山に通へども八重立つ雲を君や隔つる
跡たえて心すむとはなけれども世を宇治山に宿をこそ借れ
山おろしに堪へぬ木の葉の露よりもあやなく脆きわが涙かな
朝ぼらけ家路も見えず尋ねこし槇の尾山は霧こめてけり
雲のゐる峰のかけぢを秋霧のいとど隔つる頃にもあるかな
橋姫の心を汲みて高瀬さす棹の雫に袖ぞ濡れぬる
さしかへる宇治の川長朝夕の雫や袖をくたしはつらん
目の前にこの世をそむく君よりもよそに別るる魂ぞ悲しき
命あらばそれとも見まし人知れず岩根にとめし松の生ひ末