和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

夕顔

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

寄りてこそそれかとも見め黄昏にほのぼの見つる花の夕顔

咲く花に移るてふ名はつつめども折らで過ぎうき今朝の朝顔

朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る

優婆塞が行なふ道をしるべにて来ん世も深き契りたがふな

前の世の契り知らるる身のうさに行く末かけて頼みがたさよ

いにしへもかくやは人の惑ひけんわがまだしらぬしののめの道

山の端の心も知らず行く月は上の空にて影や消えなん

夕露にひもとく花は玉鉾のたよりに見えし縁こそありけれ

光ありと見し夕顔のうは露は黄昏時のそら目なりけり

見し人の煙を雲とながむれば夕の空もむつまじきかな

問はぬをもなどかと問はで程ふるにいかばかりかは思ひ乱るる

うつせみの世はうきものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ

ほのかにも軒ばの荻をむすばずば露のかごとを何にかけまし

ほのめかす風につけても下荻の半ばは霜にむすぼほれつつ

泣く泣くも今日はわが結ふ下紐をいづれの世にか解けて見るべき

逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな

蝉の羽もたち変へてける夏ごろもかへすを見ても音は泣かれけり

過ぎにしも今日別るるも二みちに行く方知らぬ秋の暮れかな