和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

紅葉賀

物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや

から人の袖ふることは遠けれど起ち居につけて哀れとは見き

いかさまに昔結べる契りにてこの世にかかる中の隔てぞ

見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらんこや世の人の惑ふてふ闇

よそへつつ見るに心も慰まで露けさまさる撫子の花

袖濡るる露のゆかりと思ふにもなほうとまれぬやまと撫子

君し来ば手馴れの駒に刈り飼はん盛り過ぎたる下葉なりとも

笹分けば人や咎めんいつとなく駒馴らすめる森の木隠れ

立ち濡るる人しもあらじ東屋にうたてもかかる雨そそぎかな

人妻はあなわづらはし東屋のまやのあまりも馴れじとぞ思ふ

包むめる名や洩り出でん引きかはしかくほころぶる中の衣に

隠れなきものと知る知る夏衣きたるをうすき心とぞ見る

恨みても云ひがひぞなき立ち重ね引きて帰りし波のなごりに

荒だちし波の心は騒がねどよせけん磯をいかが恨みぬ

中絶えばかごとや負ふと危ふさに縹の帯はとりてだに見ず

君にかく引き取られぬる帯なればかくて絶えぬる中とかこたん

つきもせぬ心の闇にくるるかな雲井に人を見るにつけても