物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや
から人の袖ふることは遠けれど起ち居につけて哀れとは見き
いかさまに昔結べる契りにてこの世にかかる中の隔てぞ
見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらんこや世の人の惑ふてふ闇
よそへつつ見るに心も慰まで露けさまさる撫子の花
袖濡るる露のゆかりと思ふにもなほうとまれぬやまと撫子
君し来ば手馴れの駒に刈り飼はん盛り過ぎたる下葉なりとも
笹分けば人や咎めんいつとなく駒馴らすめる森の木隠れ
立ち濡るる人しもあらじ東屋にうたてもかかる雨そそぎかな
人妻はあなわづらはし東屋のまやのあまりも馴れじとぞ思ふ
包むめる名や洩り出でん引きかはしかくほころぶる中の衣に
隠れなきものと知る知る夏衣きたるをうすき心とぞ見る
恨みても云ひがひぞなき立ち重ね引きて帰りし波のなごりに
荒だちし波の心は騒がねどよせけん磯をいかが恨みぬ
中絶えばかごとや負ふと危ふさに縹の帯はとりてだに見ず
君にかく引き取られぬる帯なればかくて絶えぬる中とかこたん
つきもせぬ心の闇にくるるかな雲井に人を見るにつけても