さしながら昔を今につたふれば玉の小櫛ぞ神さびにける
さしつぎに見るものにもが万代をつげの小櫛も神さぶるまで
若菜さす野辺の小松をひきつれてもとの岩根を祈る今日かな
小松原末のよはひに引かれてや野辺の若菜も年をつむべき
目に近くうつれば変はる世の中を行く末遠く頼みけるかな
命こそ絶ゆとも絶えめ定めなき世の常ならぬ中の契りを
中道を隔つるほどはなけれども心乱るる今朝のあは雪
はかなくて上の空にぞ消えぬべき風に漂ふ春のあは雪
そむきにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆なりけれ
そむく世のうしろめたくばさりがたき絆を強ひてかけなはなれそ
年月を中に隔てて逢坂のさもせきがたく落つる涙か
涙のみさきとめがたき清水にて行き逢ふ道は早く絶えにき
沈みしも忘れぬものを懲りずまに身も投げつべき宿の藤波
身を投げん淵もまことの淵ならで懸けじやさらに懲りずまの波
身に近く秋や来ぬらん見るままに青葉の山もうつろひにけり
水鳥の青羽は色も変はらぬを萩の下こそけしきことなれ
老いの波かひある浦に立ちいでてしほたるるあまをたれか咎めん
しほたるるあまを波路のしるべにて尋ねも見ばや浜の苫屋を
世を捨てて明石の浦に住む人も心の闇は晴るけしもせじ
光いでん暁近くなりにけり今ぞ見しよの夢語りする
いかなれば花に木伝ふ鶯の櫻を分きてねぐらとはせぬ
深山木に塒定むるはこの鳥もいかでか花の色に飽くべき
よそに見て折らぬ歎きはしげれどもなごり恋しき花の夕かげ
今さらに色にな出でそ山櫻及ばぬ枝に思ひかけきと