和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

若菜(上)

さしながら昔を今につたふれば玉の小櫛ぞ神さびにける

さしつぎに見るものにもが万代をつげの小櫛も神さぶるまで

若菜さす野辺の小松をひきつれてもとの岩根を祈る今日かな

小松原末のよはひに引かれてや野辺の若菜も年をつむべき

目に近くうつれば変はる世の中を行く末遠く頼みけるかな

命こそ絶ゆとも絶えめ定めなき世の常ならぬ中の契りを

中道を隔つるほどはなけれども心乱るる今朝のあは雪

はかなくて上の空にぞ消えぬべき風に漂ふ春のあは雪

そむきにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆なりけれ

そむく世のうしろめたくばさりがたき絆を強ひてかけなはなれそ

年月を中に隔てて逢坂のさもせきがたく落つる涙か

涙のみさきとめがたき清水にて行き逢ふ道は早く絶えにき

沈みしも忘れぬものを懲りずまに身も投げつべき宿の藤波

身を投げん淵もまことの淵ならで懸けじやさらに懲りずまの波

身に近く秋や来ぬらん見るままに青葉の山もうつろひにけり

水鳥の青羽は色も変はらぬを萩の下こそけしきことなれ

老いの波かひある浦に立ちいでてしほたるるあまをたれか咎めん

しほたるるあまを波路のしるべにて尋ねも見ばや浜の苫屋を

世を捨てて明石の浦に住む人も心の闇は晴るけしもせじ

光いでん暁近くなりにけり今ぞ見しよの夢語りする

いかなれば花に木伝ふ鶯の櫻を分きてねぐらとはせぬ

深山木に塒定むるはこの鳥もいかでか花の色に飽くべき

よそに見て折らぬ歎きはしげれどもなごり恋しき花の夕かげ

今さらに色にな出でそ山櫻及ばぬ枝に思ひかけきと