和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

薄雲

雪深き深山のみちは晴れずともなほふみ通へ跡たえずして

雪間なき吉野の山をたづねても心の通ふ跡絶えめやは

末遠き二葉の松に引き分かれいつか木高きかげを見るべき

生ひ初めし根も深ければ武隈の松に小松の千代を並べん

船とむる遠方人のなくばこそ明日帰りこん夫とまち見め

行きて見て明日もさねこんなかなかに遠方人は心おくとも

入り日さす峯にたなびく薄雲は物思ふ袖に色やまがへる

君もさは哀れをかはせ人知れずわが身にしむる秋の夕風

いさりせしかげ忘られぬ篝火は身のうき船や慕ひ来にけん

浅からぬ下の思ひを知らねばやなほ篝火の影は騒げる