船人もたれを恋ふるや大島のうら悲しくも声の聞こゆる
来し方も行方も知らぬ沖に出でてあはれ何処に君を恋ふらん
君にしも心たがはば松浦なるかがみの神をかけて誓はん
年を経て祈る心のたがひなばかがみの神をつらしとや見ん
浮島を漕ぎ離れても行く方やいづくとまりと知らずもあるかな
行くさきも見えぬ波路に船出して風に任する身こそ浮きたれ
浮きことに胸のみ騒ぐひびきには響の灘も名のみなりけり
二もとの杉のたちどを尋ねずば布留川のべに君を見ましや
初瀬川はやくのことは知らねども今日の逢瀬に身さへ流れぬ
知らずとも尋ねて知らん三島江に生ふる三稜のすぢは絶えじな
数ならぬみくりや何のすぢなればうきにしもかく根をとどめけん
恋ひわたる身はそれながら玉鬘いかなる筋を尋ね来つらん
着て見ればうらみられけりから衣かへしやりてん袖を濡らして
かへさんと言ふにつけても片しきの夜の衣を思ひこそやれ