和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

乙女

かけきやは川瀬の波もたちかへり君が御禊の藤のやつれを

藤衣きしは昨日と思ふまに今日はみそぎの瀬にかはる世を

さ夜中に友よわびたる雁がねにうたて吹きそふ荻のうは風

くれなゐの涙に深き袖の色を浅緑とはやいひしをるべき

いろいろに身のうきほどの知らるるはいかに染めける中の衣ぞ

霜氷うたて結べる明けぐれの空かきくらし降る涙かな

天にます豊岡姫の宮人もわが志すしめを忘るな

少女子も神さびぬらし天つ袖ふるき世の友よはひ経ぬれば

かけて言はば今日のこととぞ思ほゆる日かげの霜の袖にとけしも

日かげにもしるかりけめや少女子が天の羽袖にかけし心は

鶯のさへづる春は昔にてむつれし花のかげぞ変はれる

九重を霞へだつる住処にも春と告げくる鶯の声

いにしへを吹き伝へたる笛竹にさへずる鳥の音さへ変はらぬ

鶯の昔を恋ひて囀るは木づたふ花の色やあせたる

心から春待つ園はわが宿の紅葉を風のつてにだに見よ

風に散る紅葉は軽し春の色を岩根の松にかけてこそ見め