和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

若菜(下)

恋ひわぶる人の形見と手ならせば汝よ何とて鳴く音なるらん

たれかまた心を知りて住吉の神代を経たる松にこと問ふ

住の江を生けるかひある渚とは年ふるあまも今日や知るらん

昔こそ先づ忘られね住吉の神のしるしを見るにつけても

住の江の松に夜深く置く霜は神の懸けたる木綿かづらかも

神人の手に取り持たる榊葉に木綿かけ添ふる深き夜の霜

祝子が木綿うち紛ひ置く霜は実にいちじるき神のしるしか

おきて行く空も知られぬ明けぐれにいづくの露のかかる袖なり

あけぐれの空にうき身は消えななん夢なりけりと見てもやむべく

悔しくもつみをかしける葵草神の許せる挿頭ならぬに

もろかづら落ち葉を何に拾ひけん名は睦まじき插挿なれども

わが身こそあらぬさまなれそれながら空おぼれする君は君なり

消え留まるほどやは経べきたまさかに蓮の露のかかるばかりを

契りおかんこの世ならでも蓮の葉に玉ゐる露の心隔つな

夕露に袖濡らせとやひぐらしの鳴くを聞きつつ起きて行くらん

待つ里もいがが聞くらんかたがたに心騒がすひぐらしの声

あもの世をよそに聞かめや須磨の浦に藻塩垂れしもたれならなくに

あま船にいかがは思ひおくれけん明石の浦にいさりせし君

世を捨てて明石の浦に住む人も心の闇は晴るけしもせじ