和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

末摘花

もろともに大内山は出でつれど入る方見せぬいざよひの月

里分かぬ影を見れども行く月のいるさの山を誰かたづぬる

いくそ度君が沈黙に負けぬらん物な云ひそと云はぬ頼みに

鐘つきてとぢめんことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき

云はぬをも云ふに勝ると知りながら押しこめたるは苦しかりけり

夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬにいぶせさ添ふる宵の雨かな

晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心にながめせずとも

朝日さす軒のたるひは解けながらなどかつららの結ぼほるらん

ふりにける頭の雪を見る人も劣らずぬらす朝の袖かな

唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ

なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖に触れけん

くれなゐのひとはな衣うすくともひたすら朽たす名をし立てずば

逢はぬ夜を隔つる中の衣手に重ねていとど身も沁みよとや

くれなゐの花ぞあやなく疎まるる梅の立枝はなつかしけれど