和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

総角

あげまきに長き契りを結びこめ同じところに縒りも合はなん

貫きもあへずもろき涙の玉の緒に長き契りをいかが結ばん

山里の哀れ知らるる声々にとりあつめたる朝ぼらけかな

鳥の音も聞こえぬ山と思ひしをよにうきことはたづねきにけり

おなじ枝を分きて染めける山姫にいづれか深き色と問はばや

山姫の染むる心はわかねども移らふかたや深きなるらん

女郎花咲ける大野をふせぎつつ心せばくやしめを結ふらん

霧深きあしたの原の女郎花心をよせて見る人ぞ見る

しるべせしわれやかへりて惑ふべき心もゆかぬ明けぐれの道

かたがたにくらす心を思ひやれ人やりならぬ道にまどはば

よのつねに思ひやすらん露深き路のささ原分けて来つるも

さよ衣着てなれきとは言はずとも恨言ばかりはかけずしもあらじ

隔てなき心ばかりは通ふとも馴れし袖とはかけじとぞ思ふ

中絶えんものならなくに橋姫の片敷く袖や夜半に濡らさん

絶えせじのわが頼みにや宇治橋のはるけき中を持ち渡るべき

いつぞやも花の盛りに一目見し木の下さへや秋はさびしき

桜こそ思ひ知らすれ咲きにほふ花も紅葉も常ならぬ世に

いづこより秋は行きけん山里の紅葉の蔭は過ぎうきものを

見し人もなき山里の岩がきに心長くも這へる葛かな

秋はてて寂しさまさる木の本を吹きな過ぐしそ嶺の松風

若草のねみんものとは思はねど結ぼほれたるここちこそすれ

ながむるは同じ雲井をいかなればおぼつかなさを添ふる時雨ぞ

あられ降る深山の里は朝夕にながむる空もかきくらしつつ

霜さゆる汀の千鳥うちわびて鳴く音悲しき朝ぼらけかな

あかつきの霜うち払ひ鳴く千鳥もの思ふ人の心をや知る

かきくもり日かげも見えぬ奥山に心をくらすころにもあるかな

くれなゐに落つる涙もかひなきはかたみの色を染めぬなりけり

おくれじと空行く月を慕ふかな終ひにすむべきこの世ならねば

恋ひわびて死ぬる薬のゆかしきに雪の山には跡を消なまし

きしかたを思ひいづるもはかなきを行く末かけて何頼むらん

行く末を短きものと思ひなば目の前にだにそむかざらなん