風吹けば浪の花さへ色見えてこや名に立てる山吹の崎
春の池や井手の河瀬に通ふらん岸の山吹底も匂へり
亀の上の山も訪ねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん
春の日のうららにさして行く船は竿の雫も花と散りける
紫のゆゑに心をしめたれば淵に身投げんことや惜しけき
淵に身を投げるべしやとこの春は花のあたりを立ちさらで見ん
花園の胡蝶をさへや下草に秋まつ虫はうとく見るらん
こてふにも誘はれなまし心ありて八重山吹を隔てざりせば
思ふとも君は知らじな湧き返り岩洩る水に色し見えねば
ませぬうらに根深植ゑし竹の子のおのがよよにや生ひ別るべき
今さらにいかならんよか若竹の生ひ始めけん根をば尋ねん
橘のかをりし袖によそふれば変はれる身とも思ほえぬかな
袖の香をゆそふるからに橘のみさへはかなくなりもこそすれ
うちとけてねも見ぬものを若草のことありがほに結ぼほるらん