和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

胡蝶

風吹けば浪の花さへ色見えてこや名に立てる山吹の崎

春の池や井手の河瀬に通ふらん岸の山吹底も匂へり

亀の上の山も訪ねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん

春の日のうららにさして行く船は竿の雫も花と散りける

紫のゆゑに心をしめたれば淵に身投げんことや惜しけき

淵に身を投げるべしやとこの春は花のあたりを立ちさらで見ん

花園の胡蝶をさへや下草に秋まつ虫はうとく見るらん

こてふにも誘はれなまし心ありて八重山吹を隔てざりせば

思ふとも君は知らじな湧き返り岩洩る水に色し見えねば

ませぬうらに根深植ゑし竹の子のおのがよよにや生ひ別るべき

今さらにいかならんよか若竹の生ひ始めけん根をば尋ねん

橘のかをりし袖によそふれば変はれる身とも思ほえぬかな

袖の香をゆそふるからに橘のみさへはかなくなりもこそすれ

うちとけてねも見ぬものを若草のことありがほに結ぼほるらん