和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

明石

浦風やいかに吹くらん思ひやる袖うち濡らし波間なき頃

海にます神のたすけにかからずば潮の八百会にさすらへなまし

はるかにも思ひやるかな知らざりし浦より遠に浦づたひして

泡と見る淡路の島のあはれさへ残るくまなく澄むめる夜の月

ひとり寝は君も知りぬやつれづれと思ひあかしのうら寂しさを

旅衣うら悲しさにあかしかね草の枕は夢も結ばず

遠近もしらぬ雲井に眺めわびかすめし宿の梢をぞとふ

眺むらん同じ雲井を眺むるは思ひも同じ思ひなるらん

いぶせくも心に物を思ふかなやよやいかにと問ふ人もなみ

思ふらん心のほどややよいかにまだ見ぬ人の聞きか悩まん

秋の夜の月毛の駒よ我が恋ふる雲井に駈けれ時の間も見ん

むつ言を語りあはせん人もがなうき世の夢もなかば覚むやと

明けぬ夜にやがてまどへる心には何れを夢と分きて語らん

しほしほと先づぞ泣かるるかりそめのみるめは海人のすさびなれども

うらなくも思ひけるかな契りしを松より波は越えじものぞと

このたびは立ち別るとも藻塩焼く煙は同じ方になびかん

かきつめて海人の焼く藻の思ひにも今はかひなき恨みだにせじ

なほざりに頼めおくめる一ことをつきせぬ音にやかけてしのばん

逢ふまでのかたみに契る中の緒のしらべはことに変はらざらなん

うち捨てて立つも悲しき浦波の名残いかにと思いやるかな

年経つる苫屋も荒れてうき波の帰る方にや身をたぐへまし

寄る波にたち重ねたる旅衣しほどけしとや人のいとはん

かたみにぞかふべかりける逢ふことの日数へだてん中の衣を

世をうみにここらしほじむ身となりてなほこの岸をえこそ離れね

都出でし春の嘆きに劣らめや年ふる浦を別れぬる秋

わたつみに沈みうらぶれひるの子の足立たざりし年は経にけり

宮ばしらめぐり逢いける時しあれば別れし春の恨み残すな

嘆きつつ明石の浦に朝霧の立つやと人を思ひやるかな

須磨の浦に心を寄せし船人のやがて朽たせる袖を見せばや

かへりてはかごとやませし寄せたりし名残に袖の乾がたかりしを