和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

蜻蛉

忍び音や君も泣くらんかひもなきしでのたをさに心通はば

橘の匂ふあたりはほととぎす心してこそ鳴くべかりけれ

われもまたうきふるさとをあれはてばたれ宿り木の蔭をしのばん

哀れ知る心は人におくれねど数ならぬ身に消えつつぞ経る

つれなしとここら世を見るうき身だに人の知るまで歎きやはする

荻の葉に露吹き結ぶ秋風も夕べぞわきて身にはしみける

女郎花乱るる野べにまじるとも露のあだ名をわれにかけめや

花といへば名こそあだなれをみなへしなべての露に乱れやはする

旅寝してなほ試みよをみなへし盛りの色に移り移らず

宿貸さば一夜は寝なんおほかたの花に移らぬ心なりとも

ありと見て手にはとられず見ればまた行くへもしらず消えしかげろふ