世の常の垣根ににほふ花ならば心のままに折りて見ましを
霜にあへず枯れにし園の菊なれど残りの色はあせずもあるかな
今朝のまの色にや愛でん置く露の消えぬにかかる花と見る見る
よそへてぞ見るべかりける白露の契りかおきし朝顔の花
消えぬまに枯れぬる花のはかなさにおくるる露はなほぞまされる
大空の月だに宿るわが宿に待つ宵過ぎて見えぬ君かな
山里の松の蔭にもかくばかり身にしむ秋の風はなかりき
をみなへし萎れぞ見ゆる朝露のいかに置きける名残なるらん
おほかたに聞かましものを蝉の声うらめしき秋の暮れかな
うち渡し世に許しなき関川をみなれそめけん名こそ惜しけれ
深からず上は見ゆれど関川のしもの通ひは絶ゆるものかは
いたづらに分けつる路の露しげみ昔おぼゆる秋の空かな
またびとになれける袖の移り香をわが身にしめて恨みつるかな
見なれぬ中の衣と頼みしをかばかりにてやかけ離れなん
結びける契りことなる下紐をただひとすぢに恨みやはする
やどり木と思ひ出でずば木のもとの旅寝もいかに寂しからまし
荒れはつる朽ち木のもとを宿り木と思ひおきけるほどの悲しき
穂にいでぬ物思ふらししのすすき招く袂の露しげくして
あきはつる野べのけしきもしの薄ほのめく風につけてこそ知れ
すべらぎのがざしに折ると藤の花及ばぬ枝に袖かけてけり
よろづ代をかけてにほはん花なれば今日をも飽かぬ色とこそ見れ
君がため折れるかざしは紫の雲に劣らぬ花のけしきか
世の常の色とも見えず雲井まで立ちのぼりける藤波の花
かほ鳥の声も聞きしにかよふやと繁みを分けてけふぞたづぬる