和歌と俳句

源氏物語の中の短歌

宿り木

世の常の垣根ににほふ花ならば心のままに折りて見ましを

霜にあへず枯れにし園の菊なれど残りの色はあせずもあるかな

今朝のまの色にや愛でん置く露の消えぬにかかる花と見る見る

よそへてぞ見るべかりける白露の契りかおきし朝顔の花

消えぬまに枯れぬる花のはかなさにおくるる露はなほぞまされる

大空の月だに宿るわが宿に待つ宵過ぎて見えぬ君かな

山里の松の蔭にもかくばかり身にしむ秋の風はなかりき

をみなへし萎れぞ見ゆる朝露のいかに置きける名残なるらん

おほかたに聞かましものを蝉の声うらめしき秋の暮れかな

うち渡し世に許しなき関川をみなれそめけん名こそ惜しけれ

深からず上は見ゆれど関川のしもの通ひは絶ゆるものかは

いたづらに分けつる路の露しげみ昔おぼゆる秋の空かな

またびとになれける袖の移り香をわが身にしめて恨みつるかな

見なれぬ中の衣と頼みしをかばかりにてやかけ離れなん

結びける契りことなる下紐をただひとすぢに恨みやはする

やどり木と思ひ出でずば木のもとの旅寝もいかに寂しからまし

荒れはつる朽ち木のもとを宿り木と思ひおきけるほどの悲しき

穂にいでぬ物思ふらししのすすき招く袂の露しげくして

あきはつる野べのけしきもしの薄ほのめく風につけてこそ知れ

すべらぎのがざしに折ると藤の花及ばぬ枝に袖かけてけり

よろづ代をかけてにほはん花なれば今日をも飽かぬ色とこそ見れ

君がため折れるかざしは紫の雲に劣らぬ花のけしきか

世の常の色とも見えず雲井まで立ちのぼりける藤波の花

かほ鳥の声も聞きしにかよふやと繁みを分けてけふぞたづぬる