和歌と俳句

秋の空

社壇百級秋の空へと上る人 子規

見上ぐれば屹として秋の空 漱石

谷深し出る時秋の空小し 漱石

塔に上る暗きを出でて秋の空 碧梧桐

草山に馬放ちけり秋の空 漱石

幌武者の幌の浅黄や秋の空 碧梧桐

山荘の眺望御記や秋の空 碧梧桐

冷かに竹藪めぐる樫の木の木の間に青き秋の空かも 

秋空を二つに断てり椎大樹 虚子

橋立や松一筋に秋の空 漱石

雲少し榛名を出でぬ秋の空 漱石

押分る芒の上や秋の空 漱石

秋の空鳥海山を仰ぎけり 漱石

三日泊りせしを上るや秋の空 碧梧桐


鬼怒川は空をうつせば二ざまに秋の空見つゝ渡りけるかも


鵯のひゞく樹の間ゆ横さまに見れども青き秋の空よろし

牧水
悲しさの あふるるままに 秋のそら 日のいろに似る 笛吹きいでむ

牧水
樹間がくれ見居れば阿蘇の青烟はかすかにきえぬ秋の遠空

晶子
桐の葉と松の間に秋の空少し見出でて胸騒ぐかな

晶子
楼に見るセエヌの底の秋の空わがうれひより冷たかりけれ

啄木
秋の空廓寥として影もなし あまりにさびし 烏など飛べ

秋の空浅黄に澄めり杉に斧 漱石

門祓ひ疫絶えし後の秋の空 碧梧桐