和歌と俳句

秋の空

秋天の下に浪あり墳墓あり 虚子

鳶の羽のかの裂け様や秋の空 喜舟

秋の空高く巡査に叱られた 山頭火

秋空、一点の飛行機をゑがく 山頭火

山なみに高嶺はゆがむ秋の空 蛇笏

秋空や里穏かに寺の屋根 喜舟

秋天や羽山の端山雲少し 虚子

秋空に雲はない榾を割つてゐる 山頭火

卵を産んだと鳴く鶏の声が秋空 山頭火

水は透きとほる秋空 山頭火

秋空のどこかそこらで何か鳴く 山頭火

秋天や鴉の声は玉のごと 淡路女

茂吉
おのづから秋づきぬらし山中の晴れたる空は杉の秀のうへ

秋天に爆音ひびく雲ひとひら 誓子

囚獄のうす煙りして秋の天 蛇笏

秋空や子をかずつれし鳶の笛 蛇笏

秋天を濁すけむりは陸へ吹け 悌二郎

秋天や白根のけむり雲となり 素十

鳥海の二重の裾や秋の天 素十

秋天に赤き筋ある如くなり 虚子

秋空や玉の如くに揺曳す 虚子

棟竝めて早稲田大学秋の空 虚子

秋天や異人の饒舌堂を洩れ 楸邨

秋の天目もて追ふべき雲むなし 楸邨

焼嶽晴れて陽にむきがたし秋の空 蛇笏

秋の空穂高嶺雲をゆかしめず 蛇笏

八一
たかうぢの ざうみていづる えいだうの のきにはるけき あきのそらかな

秋天や心のかげを如何にせん 花蓑

秋の空蒼し秋空に対きて恥づ 鷹女

ハンカチを干せばすなはち秋の空 立子

秋空へ大きな硝子窓一つ 立子

目にて書く大いなる文字秋の空 虚子

秋天の天守閣より樋下る たかし

雲一つ秋天深く上りゆく たかし

秋天は常のごとあり夫逝くに 信子

秋天に雲あり夫を焼く焼場 信子

富士秋天墓は小さく死は易し 草田男

白雲の餅の如しや秋の天 虚子