カンナ秋幼な馴染が鉄を打つ
戦死報着けりかまつか燃ゆるへに
寡婦となりし瞳をかまつかに注ぎゐる
遺児の身丈雁来紅の間をあゆみ
鵙高音雁来紅は黄をのこす
蜻蛉群れ朝の街路樹黄にさやぐ
蜻蛉群れ鋪道出勤の刻となる
秋の街瀬戸物屋あり佇ちどまる
秋の街に買ひしは白き飯茶碗
一隊の兵馬過ぎ行けり秋の街
ゆふぐれのひびき彩なし秋の街
秋の街碧きポストをなつかしみ
兄の墓ゆすぶり恋へり秋来ぬと
蟲鳴けば兄の墓動くかと思ふ
父の墓赤いけいとうは侘し過ぎる
父の墓霧に濡れをり拭ひやる
父の墓兄の墓にも霧降れり
木犀の香にあり心あらがはず
秋の空蒼し秋空に対きて恥づ
秋蒼し昔のノート引きちぎり
秋刀魚焼く憎しみは鋭き焔に焼かれ
あす死ぬるいのちかも知らず秋刀魚焼く
蟷螂も燃ゆるカンナの中に棲めり
蟷螂の貧しき朝餉吾が朝餉
カンナ散る蟷螂を殺ししは吾子か