和歌と俳句

かるかんの出はじめにあふ秋の旅 野風呂

料理屋に舟つなぎあり小門の秋 虚子

燈台の真上の空は既に秋 播水

秋の国日の照り昃るしづかかな 播水

濠あれば居る菱舟や淀の秋 播水

舟漕いで亭主帰りぬ沼の秋 虚子

一すぢの水をひき一つ家の秋 山頭火

枕辺によせある杖や老の秋 月二郎

秋の航一大紺円盤の中 草田男

掃かれたる地にきはやかや秋の人 草田男

大木の沢山倒れ蝦夷の秋 立子

トンネルを出れば北見の国の秋 立子

汽車窓に置ける磁石や秋の旅 立子

へだたりし話聞こえて野路の秋 虚子

質草一つ出したり入れたりして秋 山頭火

帝しのぶ同じ思ひに秋の旅 野風呂

先に行く人すぐ小さき野路の秋 立子

ひとり聞くラヂオは秋のをさな唄 三鬼

朝々の秋ひとり居の麺麭を焼く 三鬼

聖堂の燭幽かにて花圃の秋 蛇笏

秋しばし寂日輪をこずゑかな 蛇笏

来ては去るバスをけしきや秋の町 万太郎

長編の序編の雑誌秋の宿 汀女

鮎釣と乗りし渡舟や恵那の秋 たかし

芭蕉より芒が高し門の秋 たかし

こんとんと秋は夜と日がわれに来る 鷹女

秋まぶし表情かたき少女の話 桃史

秋まぶし頑なに黒き瞳を俯せざる 桃史

天地ふとさかしまにあり秋を病む 鷹女

ものの翳まぶたを去らず秋を病む 鷹女

歴史悲し聞いては忘る老の秋 虚子

もの置けばそこに生れぬ秋の蔭 虚子

秋の庭犬去り猫来また犬来る 風生

いくさ来むただにしづかや秋も更け 青邨

わが髪の紅くなりゆく秋ふたとせ 青邨

きしきしときしきしと秋の玻璃を拭く 鷹女

兄と会ひつ城の石垣の秋おどろ 波郷

秋の宿松籟の下に寄り合へる 波郷

山々の男振り見よ甲斐の秋 虚子

帰還兵のせし老馬に四方の秋 蛇笏

甲斐盆地案山子が多く豊の秋 青邨

ひざまづく人そちこちに秋の寺 青邨

秋の街瀬戸物屋あり佇ちどまる 鷹女

秋の街に買ひしは白き飯茶碗 鷹女

一隊の兵馬過ぎ行けり秋の街 鷹女

ゆふぐれのひびき彩なし秋の街 鷹女

秋の街碧きポストをなつかしみ 鷹女

秋の坂み霊の父の背の紋 鷹女

秋の坂ましぐらに遺族列を正し 鷹女

秋といふも人間といふもうら淋し 鷹女

病者臥し軽金属のはしやぐ秋 鷹女

病みて聴く秋の厨のもの音を 鷹女

昼寝足りては夜を起き物を思ふも秋 友二

槙の空秋押移りゐたりけり 波郷

飛鳥路の秋はしづかに土塀の日 素逝

兄弟の墓のよりそふ道の秋 風生