和歌と俳句

三橋鷹女

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七夕や夜空展け来水の面

織姫は人の子吾のゆめに来も

河骨の水底をゆけり別れ星

曼珠沙華咲いてまつくれなゐの秋

カンナ燃え長き軍刀してゆけり

なみだ落つ秋八月の日を額に

鳥渡る生死はある人の世に

男ら征き秋よ祭の笛が鳴る

白雲に九月はや無し筆を擱く

夜霧濃く戦死兵ありこの町に

の町しろき花輪が眼にしみる

かなしみの灯をとぼすなり霧の町

の町弔旗垂れたりよもすがら

の町月光はある樺色に

秋来るとみづひき咲けり女の眸に

茱萸は黄に暁さめてゐるちぶさ

茱萸は黄に乙女めくなり吾ちぶさ

天地ふとさかしまにありを病む

人恋へば野は霧雨の赤まんま

霧霽れて赤のまんまに野は真昼

人の影踏みて来りぬ秋の山

藤袴白したそがれ野を出づる

夜霧耀りカットグラスはひとみの色

曼珠沙華咲けりいくさの場を思ふ

つはものの命は消ぬる曼珠沙華