和歌と俳句

三橋鷹女

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庭園に不向きな赤い唐辛子

梧桐の幹のなま傷十三夜

秋の蝶です いつぽんの留針です

大露の生家を売り吾がゆきどころ

尻餅をつけば蟋蟀かなしめり

踊るなり月に髑髏の影を曳き

子を哭かせをり秋蝉の鳴く下に

童女来て酸漿に朱をふりそそぐ

七夕や男がうたふ子守歌

七夕の細雨に濡るる田水らも

墓となりぬはしやぎだす曼珠沙華

石垣や喪にゐて長き法師蝉

十三夜月うつせみの泪眼に

芋嵐道化て人の死を忘る

コスモスや明治大正狭霧こめ

鵙を入れ罪負ふごとく雑木林

颱風ちかづく 老婆の手籠にたはし一箇

炎ゆる間がいのち 女と唐辛子

燈の森の ヘラヘラわらふ紅きのこ

舌で鞣しなめすよ森の青満月

蘆むらの蘆を捌くは占ひ鴉

じぐざぐの蘆よとほくの方に鐘

河が光つて夜はねむれぬ唐辛子

いちりんの花葛影を見失ふ