陸に降る秋の霖雨は海に降り
秋雨に濡るる海原みつつ濡る
秋の浜女が欷くゆゑ鳶が啼く
秋浪や欷くとき歪む唇の紅
秋旅のほろほろかなし磯に出て
秋浪も吾を呼ぶこゑも昔かな
秋浜は歎きの鳶と浪ばかり
霧雨を来て八木節を唄ふのか
きもの著て君よ秋かぜが恋しいか
何といふ月の繊さよ夫に添ひ
かまつかの四隣あくたの如し忌む
糸萩や古代紫世に埋もれ
さやうなら霧の彼方も深き霧
霧の中靴音急ぐは妻子へか
あきかぜに狐のお面被て出むや
芋の葉の露や俳諧かをり初む
ちぢれゆく女の髪や法師蝉
泣きわめく児を綾に負ひ芋嵐
三十年前にもここに鰯雲
吾亦紅夕べは鵙のふくみ音に
鵙昏れて女ひとりは生きがたし
鵙が啼く無名作家の我が耳に
つばさ無きかなしさ鵙に啼き去られ
友らみな白髪をまじへ銀木犀