和歌と俳句

三橋鷹女

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コスモスに藍濃き衣を好み著る

たそがれの蟷螂母を威し去る

こほろぎを夫が聴く夜は筆おいて

蓑蟲の相逢ふ日なし二つゐて

鶏頭の素朴が好きで日が暮れて

人妻の袂の丸み燕去る

女老い七夕竹に結ぶうた

夕べ出てをとこも買ふや草の市

いちじくや才色共に身にとほく

老いざまや万朶のに囁かれ

老の語のきよらかさりんりんと

昼も蟲まぬがれがたき老を身に

騒ぐ鏡面醜をあざやかに

無花果をもぐに一糸を纏はざる

渡るをんなの影を地に残し

九月萩こよなく愛す古つまを

生涯の悪筆が鳴きわたる

老い急ぐ秋光を身にびつしりと

後の月五臓六腑をおし照らす

女一人佇てり銀河を渉るべく

白露や死んでゆく日も帯締めて

初鵙や過去に棒線太く引く

啖ふ少女の美貌樹に跨がり