英霊の父かも大き掌に秋日
秋の坂み霊の父の背の紋
秋の坂ましぐらに遺族列を正し
遺族ゆくひとりひとりの背に秋日
秋といふも人間といふもうら淋し
父こひし草山秋の日を湛へ
草山は秋風吹けり父の貌
萩桔梗草山赤き陽をよべば
野にひとり秋の没日は掌に抱かな
もの問へど秋風われにつきまとふ
秋風や水より淡き魚のひれ
秋風に吾を誑かすもののあれや
病者臥し軽金属のはしやぐ秋
吾子が煮し飯なり秋の畳に食む
病みて聴く秋の厨のもの音を
愛猫を抱く秋風のうしろまへ
秋風に黒猫とゐて食む夜食
おもひ崩れゆきつつ耳に蟲鳴けり
秋の夜なり剃刀の刃を磨ぎへらし
秋夜真夜鋭きものはかなしかり
泣きぬれてあれば秋夜の頭が閃く
遠くもよ想ひ夜空の秋を行く
秋深し嘆きは人の辺にかへる
秋深し心つはもののへを去らず