和歌と俳句

憲吉
ゆふぐれて山をくだれば蟲のこゑ道もせにして頻りに鳴くも

蟲野来てうしろになりし水音かな 亞浪

牧水
耳は耳目は目からだがばらばらに離れて虫をきいてをるものか

踞して友の額に微光や虫を聞く 石鼎

ほそぼそとまた二ところ庵の虫 石鼎

虫なくや我れと湯を呑む影法師 普羅

八一
おこたりて草になりゆくひろにはのいりひまだらにむしのねぞする

風吹きつのる草原の虫鳴きつのる 山頭火

鳴く虫のひとつ店の隅にて更けてあり 山頭火

虫なくや帯に手さして倚り柱 久女

虫鳴くや三とこに別れ病む親子 久女

晶子
はてもなき大地の月夜そことなく浮きただよへる虫の声かな

同じ音に同じところや夜々の虫 石鼎

鳴きやめば虫またもとの高ゥな 播水

茂吉
ほそほそととほりて鳴ける蟲が音はわがまへにしてしまらくやみぬ

茂吉
ほそほそと土に沁みいる蟲がねは月あかき夜にたゆることなし

耕平
裏戸出でてもとほり聞けば虫繁し納屋の中にも一つ鳴きたり

耕平
磯波の音もとだえし夜のしづみ洋燈の笠にとまる虫あり

漕ぎ出て遠き心や虫の声 亞浪

己が影怖ぢて逃ぐるや露の虫 月二郎

一心に虫は啼くのみ日が炎えて 亞浪

鳴かずなんぬ月浴びさする籠の虫 亞浪

身延の燈煌々と虫嗄れきりぬ 亞浪

刺の道ゆかむとしては虫に哭く 亞浪

蟲の夜の更けては葛の吹きかへす 蛇笏

虫鳴くや向ひ合ひたる寺の門 普羅

かがまりて虫の音をきく日和かな 草城

虫なくや灯影隈なき籠の中 草城

遠き虫に声を浮かせてそこの虫 草城

うらぶれて蟲のまなこに眺め入る 草城

虫時雨わきて今宵は親恋し 草城

須弥壇の真昼虫鳴く廃寺かな 草城