和歌と俳句

蘭の香やてふの翅にたき物す 芭蕉

門に入ればしてつに蘭のにほひ哉 芭蕉

香をのこす蘭帳蘭のやどり哉

椽側にさし入る月や蘭の花 涼菟

蘭の香や袷かかえて椽通り 涼菟

蘭の香やなじみでもない草にまで 千代女

蘭の香や手にうけて見るものならば 千代女

乱るゝは風の当字や蘭の花 也有

蘭夕狐のくれし奇南をたかむ 蕪村

蘭の香や菊よりくらき辺より 蕪村

夜の蘭香にかくれてや花白し 蕪村

蘭の香や雑穀積たる船の底 几董

蘭の香や糸なき琴のしらべより 青蘿

蘭の香や異国のやうに三日の月 一茶

蘭の香や門を出づれば日の御旗 漱石

蘭の香や聖教帖を習はんか 漱石

清貧の家に客あり蘭の花 子規

菅公に梅さかざれば蘭の花 漱石

筆談の客と主や蘭の花 子規

凋落す双樹の下に蘭のあり 碧梧桐

蘭の香も法隆寺には今めかし 虚子

ひとりいゐて静に蘭の花影かな 鬼城

雁を射て湖舟に焼くや蘭の秋 蛇笏

句また焼くわが性淋し蘭の秋 蛇笏

蘭の花碁鬼となるべき願あり 龍之介

瀧ぐちの蘭のしげりや雲這へる 蛇笏

小机の閑日月や蘭の秋 草城

故国荒る書斎に庭の蘭を剪り 虚子