和歌と俳句

夏目漱石

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ひやひやと雲が来る也温泉の二階

玉か石か瓦かあるは秋風

枕辺や星別れんとする晨

稲妻に行手の見えぬ廣野かな

秋風の寺々鐘を撞く

廻廊の柱の影や海の

明月や丸きは僧の影法師

酒なくて詩なくての静かさよ

明月や浪華に住んで橋多し

引かで鳴る夜の鳴子の淋しさよ

無性なる案山子朽ちけり立ちながら

打てばひびく百戸余りの

鮎渋ぬ降り込められし山里に

白壁や北に向ひて桐一葉

柳ちりて長安は秋の都かな

垂れかかる静かなり背戸の川

蘭の香や聖教帖を習はんか

後に鳴き又先に鳴きかな

窓をあけて君に見せうず菊の花

世は貧し夕日破垣烏瓜

鶏頭や代官殿に御意得たし

長けれど何の糸瓜とさがりけり

禅寺や芭蕉葉上愁雨なし

無雑作に蔦這上る厠かな

仏には白菊をこそ参らせん