和歌と俳句

秋の風

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散りやすきものから吹くや秋の風 子規

子規
あら澤の鴫たちかたゆくれそめて尾花の袖をかへす秋風

秋風や伊豫へ流るゝ汐の音 子規

痩せたりや二十五年の秋の風 子規

秋風やはりこの龜のぶらんぶらん 子規

都には何事もなし秋の風 子規

火ちらちら足もとはしる秋の風 子規

秋風と共に生えしか初白髪 漱石

秋風やの大路の朱傘 子規

聞きにゆけ須磨の隣の秋の風 子規

秋風の一日何を釣る人ぞ 子規

蜘の巣に蜘は留守也秋の風 子規

旅の旅又その旅の秋の風 子規

秋風や鳥飛び盡す筑波山 子規

ていれぎの下葉浅黄に秋の風 子規

親が鳴き子猿が鳴いて秋の風 子規

白河や二度こゆる時秋の風 子規

秋風や妙義の山に雲はしる 子規

秋風や人あらはなる山の宿 子規

秋風や森を出でて川横はる 子規

秋風の上野の出茶屋人もなし 子規

秋風や囲ひもなしに興福寺 子規

右京左京中は畑なり秋の風 子規

般若寺の釣鐘細し秋の風 子規

秋風や平家弔ふ経の声 子規

秋風や高井のていれぎ三津の鯛 子規

日の入や秋風遠く鳴つて来る 漱石

秋風や道に這ひ出るいもの蔓 碧梧桐

庭十歩秋風吹かぬ隈もなし 子規

三十六坊一坊残る秋の風 子規

古りけりな道風の額秋の風 漱石

秋風やの寺々鐘を撞く 漱石

来て見れば長谷は秋風ばかり也 漱石

秋風や棚に上げたる古かばん 漱石

子規
蒲殿がはてにしあとを弔へば秋風強し修善寺の村

子規
夕されば波うちこゆる荒磯の蘆のふし葉に秋風ぞ吹く

秋風や古き柱に詩を題す 虚子

秋風や梵字を刻す五輪塔 漱石

先生の疎髯を吹くや秋の風 漱石

秋風や茶壺を直す袋棚 漱石

秋風の一人をふくや海の上 漱石

晶子
おばしまにおもひはてなき身をもたせ小萩をわたる秋の風見る

利玄
朝に入る鮭のうろこにうそ寒う夕日ひかりぬ船の秋風

秋風や眼中のもの皆俳句 虚子

秋風のしきりに吹くや古榎 漱石

晶子
伽藍すぎ宮をとほりて鹿吹きぬ伶人めきし奈良の秋かぜ

晶子
花草の満地に白とむらさきの陣立ててこし秋の風かな

晶子
大赤城北上つ毛の中空に聳やぐ肩を秋のかぜ吹く

晶子
秋のかぜ今わかかりし画だくみの百日かへらぬ京を吹くらむ

晶子
秋かぜは鈴の音かな山裾の花野見る家の軒おとづれぬ

晶子
秋の風きたる十方玲瓏に空と山野と人と水とに

学問の稚子のすゝみや秋の風 碧梧桐

秋風に鵜を遣ひけり唯二匹 虚子

秋風にいつまで遇はぬ野路二つ 虚子


小芒の淺山わたる秋風に梢吹きいたむ桐の木群か


栂尾の槭は青き秋風に清瀧川の瀬をさむみかも


鵯の晴を鳴く樹のさやさやに葛も薄も秋の風吹く