和歌と俳句

筑波山

万葉集・巻第三 丹比真人
筑波嶺を外のみ見つつありかねて雪消の道をなづみ来るかも

高橋虫麻呂
筑波嶺に我が行けりせばほととぎす山彦響め鳴かましやそれ

高橋虫麻呂
今日の日にいかにかしかむ筑波嶺に昔の人の来けむその日も

高橋虫麻呂
筑波嶺の裾廻の田居に秋田刈る妹がり遣らむ黄葉手折らな

万葉集東歌
筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも

筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾去るかも

筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに息づく君を率寝て遣らさね

妹が門いや遠そきぬ筑波山隠れぬほとに袖は振りてな

筑波嶺にかか鳴く鷲の音のみをか泣きわたりなむ逢ふとはなしに

筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに

筑波嶺の岩もとどろに落つる水よにもたゆらに我が思はなくに


古今集・雑歌 みやぢのきよき
筑波嶺のこのもとごとにたちぞ寄る 春のみやまの蔭を恋ひつつ

古今集・東歌
筑波嶺のこのもかのもにかげはあれど 君がみかげにますかげはなし

古今集・東歌
筑波嶺の峰のもみぢ葉おちつもり 知るも知らぬもなべてかなしも

好忠
筑波山 端山繁山 しげけれど 降りしく雪は さはらざりけり

能因
君が世は しら雲かかる 筑波嶺の みねのつづきの 海となるまで

新勅撰集・雑歌 能因法師
よそにのみ おもひおこせし つくばねの みねのしらゆき けふ見つるかな

藤原顕仲
あづまぢや 知らぬさかひに やどりして 雲ゐに見ゆる 筑波山かな

雅経
筑波山 しげきこずゑや いかならむ このもかのもの 雪の下折れ

実朝
をしなべて 春はきにけり 筑波嶺の 木のもとごとに かすみたなびく


行春やむらさきさむる筑羽山 蕪村

春立や見古したれど筑波山 一茶

畠打の顔から暮るるつくば山 一茶

よしきりや空の小隅のつくば山 一茶

冬枯や垣にゆひ込つくば山 一茶

子規
いつはあれと いつこはあれと 日の本の 春はつくばゆ 朝日さしのぼる

子規
名月や彷彿としてつくば山


筑波嶺の巌根踏みさくみ國見すと霞棚引き隔てつるかも


さ蕨の萌え出づる春に二たびもい行かむ山の筑波しうるはし


筑波嶺の茅生のかや原さらさらにこゝには散らず降れる雪かも


筑波嶺に降りける雪は白駒の額毛に似たり消えずもあらぬか


おくて田の稻刈るころゆ夕されば筑波の山のむらさきに見ゆ


夕さればむらさき匂ふ筑波嶺のしづくの田居に雁鳴き渡る


蜀黍の穗ぬれに見ゆる筑波嶺ゆ棚引き渡る秋の白雲


稻の穗のしづくの田居の夜空には筑波嶺越えて天の川ながる


筑波嶺ははれわたり見ゆ丘の邊の唐人草の枯れたつがうへに


筑波嶺のたをりの路のくさ群に白くさきたる一りむさうの花


筑波嶺のみちの邂逅にやまびとゆ聞きて知りたるやまぶきさうの花

千樫
梅雨はれて夕空ひろしここに見る筑波の山の大きかりけり

白秋
霜いたり空は濃青き夜の明けに筑波の山はくきやかに見つ

筑波嶺の消えて畦火も衰へぬ 楸邨

裏筑波焼け木の鳶にうす霞む 蛇笏

東風吹くや岩戸の神の二はしら 蛇笏