和歌と俳句

四万温泉

晶子
四万の里 呑まんとしては 躊躇へり をかしき空の いなづまの口

晶子
四万の奥 工場のトロの 過ぎ去れば 蓬の匂ふ 山荘の窓

晶子
四萬の奥 月夜につづく 東雲を めづる里人 戸ざさずて寝る

晶子
わづかなる 菱形をおく 空なれど あてに明け行く 四万の奥かな

晶子
わが心 あはれいのちの 末日に 浴みて安し 四万の湯の渓

晶子
城の垣 うつるここちに 真白けれ 四万の流の 水底の石

茂吉
四萬谷に しげりて生ふる 杉の樹は 古葉をこめて 秋ふかむなり

茂吉
朝の日は いまだも低く 四萬川の 石のべに来て 身をあたためぬ

朝寒く夜寒く人に温泉あり たかし

友ら四万に四万や蕨もほけにけむ 友二

四万川にぐわらりと春の氷柱かな 楸邨

奥四万や落石はしる雪の上 楸邨

四万川の瀬鳴り押し来る秋の雨 普羅

四万川に一樹のはこぼれけり 普羅

奥四万の月にいつまで祭笛 普羅

祭笛四万のさぎりに人遊ぶ 普羅

秋祭人語四万の峠より 普羅

四万の湯の宵の大雨や盆の入 秋櫻子

朝晴れて唐黍積めり野菜市 秋櫻子