和歌と俳句

四万川に一樹の栗はこぼれけり 普羅

丹波栗笑みたる下の地主径 普羅

生栗の上の干栗一と莚 普羅

美しき栗鼠の歯形や一つ栗 普羅

栗の毬山なす道に出でにけり 普羅

ただ憩ふ芝なめらかに栗おつる 蛇笏

しばぐりのいろづくほどにいがの数 蛇笏

栗飯や人の吉凶入りみだれ 草城

栗食むや若く哀しき背を曲げて 波郷

栗を手ぐさの松山訛のみならず 波郷

ひろひためたる栗を土産かな 虚子

栗くれぬ否み難くて手にしたり 秋櫻子

栗を黄に剥きしや罪を怖れぬ手静塔

栗剥けり喀血窒息屍通りをり 波郷

栗落とす女を見つつ湯浴みをり 波郷

岩山に風ぶつかれり歯でむく栗 三鬼

栗食ふと膝入るるなり古机 波郷

都より疲れもどりて栗を焼く 秋櫻子

栗拾ふ籬結はねばその庭に 爽雨

せせらぎに拾ひし栗のことに大 爽雨

もてなしやランプの下に栗むきて 立子

死の見ゆる日や山中に栗おとす 不死男

銀髪やみづから栗の籠を負ひ 静塔

母達や数珠繰るごとく栗を選る 静塔

栗落す男来女来われも行く 波郷

看護婦のしりへに患者栗拾ひ 波郷

てのひらに柴栗妻がのこしけり 波郷

山中や何れか固き鼻と栗 耕衣

看護婦の声こそひびけ栗拾ひ  波郷

婆羅門女天狗さびしき顔す栗ころげ 楸邨

栗笑めりそこまでの地を未だ踏まず 波郷

栗鼠の歯の少女一匹栗齧る 静塔

到来の栗をよろこぶ汝も栗か 爽雨

妻の役火中の栗をせせり出す 静塔

栗飯のもりあがる黄をほぐし食ふ 林火