和歌と俳句

秋元不死男

生ゆげほんげほんと犬の咳

かりがねや軍港かくす貨車の胴

七夕やまだ指折つて句をつくる

夕野分ベルトたわたわ缶つくる

雁の街杖持ち修学旅行団

はたはたに蹴られて風のたなごころ

銀河の尾死と振替に一句集

原爆忌巣箱守つて静かな樹

豊年や切手をのせて舌甘し

灯ともして良夜を証す艀妻

秋の暮川の向うに子守唄

みちのくの旅に海透く稲雀

母恋し赤き小切の鳥威

受難図に棚引く秋刀魚けむりかな

秋風や火種つまんで箸焦す

死の見ゆる日や山中におとす

母恋し首を伸して落し水

青銅の耶蘇の顎吹く野分かな

光陰を継ぐぽつねんと虚栗

ひぐらしや高嶺落ちこむ青湯壺

ねむい胃を森に寝かせる子規忌かな

脂火の秋刀魚が照らす鍬の丈

蛇笏葬へ牛の鳴き交ふ中割つて

蛇笏逝き蟲の音沈む山泉

峡中に蛇笏の葬り黍長けて