和歌と俳句

秋元不死男

塩壺にはらりと溶ける野分かな

塩効いて秋風冷す握り飯

風上に馬ゐて秋暮急な村

泣いて匂ふ白き因幡の菊うさぎ

菊の曾我五郎が先に袖枯らす

猪口才や忍者の小菊宙に咲き

一落柿踏み落柿舎と別れけり

残る音の嵯峨野に母を欲り

終戦日妻子入れむと風呂洗ふ

深山十九時ひぐらしの声折れさうに

嘆く日のみな一杖の葡萄の木

蛇笏忌やどすんと落ちて峡の柿

峡冷えの冷えは嘆きに似て

落人に愛されし峡一位の実

秋燕や毛槍のごとき峡の桑

でこぼこの藁塚の影死は遠からじ

弟子訪うて真一文字に置く

深山柿やらずの雨となりにけり

鈴蟲が死して一寸法師泣く

少年の虚実いきいき落し水

ととととと蟹の眼洗ふ秋の波

流燈へ浮上のろのろ老カレヒ

墨折れて七夕雨となりにけり

跳ぶばつたひとりの強さ肯ふも

一粒や睡りの隅にを置く