塩壺にはらりと溶ける野分かな
塩効いて秋風冷す握り飯
風上に馬ゐて秋暮急な村
泣いて匂ふ白き因幡の菊うさぎ
菊の曾我五郎が先に袖枯らす
猪口才や忍者の小菊宙に咲き
一落柿踏み落柿舎と別れけり
終戦日妻子入れむと風呂洗ふ
深山十九時ひぐらしの声折れさうに
嘆く日のみな一杖の葡萄の木
蛇笏忌やどすんと落ちて峡の柿
峡冷えの冷えは嘆きに似て菌
落人に愛されし峡一位の実
秋燕や毛槍のごとき峡の桑
でこぼこの藁塚の影死は遠からじ
弟子訪うて真一文字に芒置く
深山柿やらずの雨となりにけり
鈴蟲が死して一寸法師泣く
少年の虚実いきいき落し水
ととととと蟹の眼洗ふ秋の波
流燈へ浮上のろのろ老カレヒ
墨折れて七夕雨となりにけり
跳ぶばつたひとりの強さ肯ふも
一粒や睡りの隅に露を置く