和歌と俳句

平畑静塔

流燈がすすむ心の音楽と

大文字手に乗る遠さ頒たむと

秋草を抜く二房の乳重たし

通勤の首を扼しては秋風

秋の夜や書淫まさしく子に伝はり

葡萄垂れさがる如くに教へたし

錐もみにが国旗の朱を指し

穂波黒き楽器の箱を提げ

山高の案山子を典獄かと思ふ

こほろぎの真上の無言紅を裂く

を黄に剥きしや罪を怖れぬ手

レールの艶我等の秋暮貫きて

秋耕の夜の手に辞書の紙うすし

掘りし泥足脛は美しく

りぞーるの熱さ十指に秋の暮

青西日籠めて熟れつつ葡萄

壁穴のいとども加へ聖家族

太柱鈴虫の声飼はれゐて

蟷螂の浮足立てて皮聖書

新煉瓦積めばとつぷり秋の暮

投票に出るや一本野川澄み

セメントの坂の日向を葡萄摘

天辺や腋毛ゆたかの葡萄

手を拍つて大満月の牛を追ふ

金堂を秋晴に出し老大工