和歌と俳句

坂上是則
かりてほす山田のいねのこきたれてなきこそわたれ秋のうければ

凡河内躬恒
かりてほす山田の稲をほしわびてまもるかりほにいくよへぬらん

好忠
我守るなかての稲ものぎはおちむらむら穂先出でにけるかも

遠山田穂波うち過ぎ出でにけりいまは見守りもそら目すらしも

匡房
ちはやぶる神田の里の稲なれば月日とともに久しかるべし

旅人の藪にはさみし稲穂哉> 一茶

稻の香や闇に一すぢ野の小道 子規

稲の穂に招く哀れはなかりけり 子規

むさし野は稲よりのぼる朝日哉 子規

稲の穂の伏し重なりし夕日哉 子規

稲の穂や南に凌雲閣低し 子規

村遠近雨雲垂れて稲十里 子規

稲の穂に湯の町低し二百軒 子規

稲の雨斑鳩寺にまうでけり 子規

稲の秋命拾ふて戻りけり 子規

山四方中を十里の稲莚 漱石

一里行けば一里吹くなり稲の風 漱石

稲熟し人癒えて去るや温泉の村 漱石

長塚節
稲刈りて淋しく晴るる秋の野に黄菊はあまた眼をひらきたり

茂吉
稲を扱く器械の音はやむひまの無くぞ聞こゆる丘のかげより