和歌と俳句

秋の山

鏡王女
秋山の木の下隠行く水の我れこそ増さめ思ほすよりは

大伯皇女
ふたり行けど行き過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ

貫之
秋の山もみぢをぬさとたむくればすむわれさへぞ旅心地する

定家
秋山はもみぢ踏み分け訪ふ人も聲きく鹿の音にぞなきぬる

秋山や駒もゆるがぬ鞍の上 其角

雨三粒降て人顕るゝあきの山 暁台

秋の山活て居迚うつ鉦か 一茶

はつきりと垣根に近し秋の山 子規

一ひらの雲の行へや秋の山 子規

はつきりと行先遠し秋の山 子規

信濃路やどこ迄つづく秋の山 子規

道尽きて雲起りけり秋の山 子規

秋の山御幸寺と申し天狗住む 子規

秋の山松鬱として常信寺 子規

土佐で見ば猶近からん秋の山 漱石

秋の山静かに雲の通りけり 漱石

秋の山いでや動けと瀑の音 漱石

大滝を北へ落すや秋の山 漱石

森濡れて神鎮まりぬ秋の山 子規

秋の山松明かに入日かな 漱石

頂に湖水あろといふ秋の山 碧梧桐

墓と見えて十字架立つる秋の山 碧梧桐

北側は杉の木立や秋の山 漱石


冷やけく茶の木の花にはれわたる空のそくへに見ゆる秋山

牧人の日出る方や秋の峯 碧梧桐

人岩の高きに見ゆる秋の山 碧梧桐

遠のきし雲夕栄えす秋の山 碧梧桐

雲こめし中や雨ふる秋の山 碧梧桐

谷の日のどこからさすや秋の山 鬼城

秋の山阿弥陀堂まで送らるる 虚子