和歌と俳句

砧 きぬた

新勅撰集 貫之
唐衣 うつこゑきけば 月きよみ まだねぬ人を そらにしるかな

新勅撰集 好忠
衣うつ砧の音を聞くなべに霧立つ空に雁ぞなくなる

後拾遺集 中納言資綱
唐衣ながきよすがらうつ聲に我さへねでも明かしつるかな

後拾遺集 伊勢大輔
小夜更けてこころしてうつ聲きけば急がぬ人もねられざりけり

後拾遺集 藤原兼房朝臣
うたたねに夜や更けぬらん唐衣うつ聲たかくなりまさるなり

千載集 公実
こひつつや 妹が打つらむ 唐衣 砧の音の そらになるまで

匡房
衣打つ 槌の音こそ 弛むなれ たぶさに霜の おくにやあるらむ

国信
小夜深く 砧に当たる 槌の音の しげきやたれか 衣打つらむ

師頼
秋風は 涼しくなりぬ 唐衣 たがためにとて 急ぎ打つらむ

源顕仲
ふるさとの 夜寒になれば 衣打つ たびにや君も おもひいづらむ

仲実
待つ程の 過ぎやしぬらむ 衣打つ 砧の音の うらみ声なる

藤原顕仲
唐衣 この里人の 打つこゑを ききそめしより 寝る夜はぞなき

千載集 基俊
たがために いかにうてばか から衣 千たび八千たび 声のうらむる

永縁
長き夜に 衣して打つ 槌の音や ものおもふひとの ともとなるらむ

京極関白家肥後
たがためと おもひそめてか 夜もすがら 遠の里人 衣打つらむ

祐子内親王家紀伊
たのめおきし ほどふるままに 小夜衣 うらめしげなる 槌のおとかな

前斎宮河内
さむしろも さゆるしもよに よもすがら をちのさとには 衣打つなり

新勅撰集 俊成
衣うつひびきは月の何なれや冴えゆくままに澄みのぼるらむ

西行
ひとりねの夜寒になるにかさねばや誰がためにうつ衣なるらむ

西行
さよ衣いづこの里にうつならむ遠くきこゆるつちの音かな

寂蓮
明けやらぬ 寝覚めの友に なれとしも 思はでこそは 衣打つらめ

千載集 仁和寺後入道法親王覚性
さ夜ふけてきぬたの音ぞたゆむなる月を見つつや衣うつらん

千載集 俊頼朝臣
松風の音だに秋はさびしきに衣うつなり玉川の里

千載集 俊盛法師
衣うつ音を聞くにぞ知られぬる里遠からぬ草まくらとは

新古今集 藤原輔尹朝臣
秋風は身にしむばかり吹きにけり今や打つらむ妹がさごろも

新古今集 慈円
衣うつおとは枕にすがはらやふしみの夢をいく夜のこしつ

新古今集 権中納言公経
衣うつみ山のいほのしばしばも知らぬ夢路にむすぶ手枕

新古今集 良経
里はあれて月やあらぬと恨みてもたれ浅茅生に衣うつらむ

新古今集 藤原雅経
みよし野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒くころもうつなり

新古今集 式子内親王千たび打つきぬたの音に夢さめて物思ふ袖の露ぞくだくる

新古今集 式子内親王更にけり山の端近く月冴えて十市の里に衣うつ聲

定家
さびしさをまた打ちそふる衣かな音をねざめの友と聞けども

定家
山がつの身のためにうつ衣ゆゑ秋のあはれをてにまかすらん

定家
しのばじよあはれもなれがあはれかは秋をひびきに打つ唐衣

定家
とけてねぬ伏見の里も名のみしてたれ深き夜に衣うつらむ

定家
もしほ焼くあまの苫屋に秋ふけて衣うつなり須磨のあけぼの

定家
衣打つひびきぞ風をしたひくるこずゑはとほき月の隣に

俊成
頼めおく人やあるらむ波風に衣うつなり松が浦島

定家
初雁のたよりもすぐる秋風にこととひかねてころもうつこゑ

良経
かへるべき越の旅人まちわびてみやこの月に衣うつなり

定家
ながき夜をつれなく残る月のいろに おのれもやまず衣うつなり

実朝
秋たけて夜ふかき月の影見ればあれたる宿に衣うつなる

実朝
さよ更てなかばたけ行月影にあかでや人の衣うつらむ

実朝
夜を寒みね覚て聞ば長月の有明の月に衣うつなり

実朝
獨ぬる寝覚に聞ぞ哀なる伏見の里に衣うつこゑ

実朝
み吉野の山下風の寒き夜をたれふる里に衣うつらむ

定家
秋風にさそはれきえてうつころも及ばぬ里のほどぞしらるる

定家
久方のかつらの里のさよごろもおりはへ月のいろにうつなり

新勅撰集 如願法師
月になく かりのはかぜの さゆる夜に しもをかさねて うつ衣かな

定家
露霜のおくての山田吹く風のもよほす方に衣打つなり